日本の藻類燃料以外の研究の変遷

日本の藻類燃料以外の研究の変遷

先日、日本国内における藻類研究の動向(2018年3月現在)についてご紹介した。

 

また、3回にわたるシリーズで日本の藻類燃料研究の変遷についてもご紹介した。



 

微細藻類燃料関連のプロジェクトは以上であるが、最近では燃料生産以外の取り組みでもいくつか微細藻類関連の大型プロジェクトが出てきている。
上述した微細藻類燃料以外の取り組みも含めた一覧表は以下の通りとなる。ここ数年は燃料以外の研究プロジェクトが増えている傾向が見て取れ、燃料以外で1億円以上の予算がついているものが9プロジェクトある。

微細藻類研究(全体)に関する日本国内グラント一覧表(2009〜2018)/筆者作成

以下に燃料生産以外での取り組みで1億円以上の予算がついた9プロジェクトの概要について紹介していく。

63)藻類リソースの収集・保存・提供

【概要】ライフサイエンス研究に資する世界最高水準の藻類リソースの整備を目的として、微細藻類リソース及び海藻リソースの収集と集約、保存・提供、バックアップ体制の整備、リソース情報やネットワークの整備、広報啓蒙活動等を行う。またリソースの高品質化や付加価値向上、モデル生物等の重要なリソースの開発と拡充にも取り組む。
【委託先】<公的機関> 国立環境研究所*(中核機関) <大学> 筑波大学、 神戸大学
【期間】2012〜2021年度
【費用】500百万円
【事業名】AMED「ナショナルバイオリソースプロジェクト」

64)転写と時計の改変によるラン藻炭素源供給の量的緩和とコハク酸生産

【概要】コハク酸は、プラスチックなどの化学製品の原料となることが知られている。コハク酸は石油から合成されているが、環境・資源の問題から生物由来の生産が求められている。本研究では、光合成細菌であるラン藻を用いてコハク酸生産を行う。ラン藻を用いることにより、光エネルギーと大気中の二酸化炭素を直接利用できる。本計画では、最新の代謝解析技術を駆使して、効率的にコハク酸を生産する技術の開発を行う。
【委託先】<公的機関>理化学研究所 <大学>明治大*(中核機関)、神戸大学
【期間】2013〜2018年度
【費用】150百万円 (30百万円/年)
【事業名】JST 「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」

65)未利用藻類の高度利用・培養型次世代水産業の創出

【概要】課題は大きく2つに分かれる。1.「藻類からの高度不飽和脂肪酸生産 (EPA、DHA等)」藻類コレクション及び自然界からの有用株選定、確立を行う。2.「藻類からの貝毒標準品生産」貝毒標準品の効率的な精製技術の確立を行う。有毒微細藻コレクション及び自然界からの単離した微細藻の各種毒成分産生株のスクリーニング、培養法の確立を行うとともに、貝毒等標準品の効率的精製技術を確立する。
【委託先】<公的機関>水産総合研究センター*(中核機関)、国立環境研究所、産業技術総合研究所、 理化学研究所 <大学>高知大学、筑波大学、東京大学 <企業・法人>株式会社ユーグレナ、株式会社シー・アクト、株式会社ヒガシマル、一般社団法人トロピカルテクノプラス、一般財団法人日本食品分析センター
【期間】2014〜2019年度
【費用】850百万円
【事業名】内閣府 SIP「次世代農林水産業創造技術」

66)微細藻類の大量培養技術の確立による持続可能な熱帯水産資源生産システムの構築

【概要】マレーシアで、有用な機能を有する微細藻類とそれらの成長を促進する物質を探索し、新たな培養リアクタの開発によって現地に適した微細藻類大量培養技術の確立を目指す。養殖産業の急激な成長により、多量の汚泥や汚水が自然界に排出されている。これらの汚泥や汚水から栄養類を積極的に回収し、価値の高い微細藻類を大量生産することで、経済的インセンティブの獲得と環境保全を両立させる循環型システムの構築が可能となる。
【委託先】<公的機関>国立環境研究所 <大学>創価大学*(中核機関)、東京工業大学、東京大学、マレーシア・プトラ大学(UPM)(マレーシア)、マレーシア・トレンガヌ大学(UMT)(マレーシア)、セランゴール大学(UNISEL)(マレーシア)
【期間】2015〜2020年度
【費用】500百万円
【事業名】JST/AMED/JICA SATREPS「生物資源」

67)バイオガス中のCO2分離・回収と微細藻類培養への利用技術実証事業

【概要】本プロジェクトでは、これまで利用されていなかった下水処理施設から発生する消化ガス(バイオガス)中のCO2を高濃度で分離・回収し、微細藻類培養に有効活用するとともに、脱水分離液をユーグレナなどの微細藻類培養に必要な栄養源として利用することを検証する。
【委託先】<公的機関>日本下水道事業団、佐賀市共同研究体 <企業>株式会社東芝、株式会社ユーグレナ、日環特殊株式会社、株式会社日水コン
【期間】2015〜2016年度
【費用】1,000百万円
【事業名】国土交通省 「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」

68)微細藻類からのカロテノイド色素の生産技術開発

【概要】詳細不明
【委託先】<大学>神戸大学*(中核機関) <企業> DIC株式会社
【期間】2016〜2021年度
【費用】498百万円
【事業名】JST 「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」

69)亜リン酸を用いたロバスト且つ封じ込めを可能とする微細藻類の培養技術開発

【概要】亜リン酸は、酸化数+3価のリン酸で、通常の生物は利用できない。本研究では、亜リン酸を利用できる能力を藻類に与えることによって、雑菌汚染に強いロバストな藻類培養技術を確立する。さらに、育種した藻類が自然界に漏れ出しても生存できないようにリンの代謝系に改変を加え、亜リン酸だけに生育を依存するようにした生物学的封じ込め技術へと発展させる。
【委託先】広島大学
【期間】2016〜2020年度
【費用】180百万円 (36百万円/年)
【事業名】JST 「未来創造事業:「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現」

70)藻類バイオマスの効率生産と高機能性プラスチック素材化による協働低炭素化技術開発

【概要】セメント製造工程で発生するCO2を微細藻類で高効率に固定化し、この培養した微細藻類から回収した有価有機成分を用いて、高機能なバイオプラスチック素材を低エネルギーで製造する技術を開発する。本技術開発により、従来の耐久製品用の石油合成プラスチック素材と比較して 50%以上のCO2排出量削減を実現する。
【委託先】<大学>筑波大学*(中核機関) <企業> 藻バイオテクノロジーズ株式会社、 三菱マテリアル株式会社、日本電気株式会社
【期間】2017〜2019年度
【費用】500百万円
【事業名】環境省「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業」

71)弱酸性化海水を用いた微細藻類培養系及び利用系の構築

【概要】淡水産の好酸性紅藻類に遺伝的改変を施すことで、海水適性付与による安価培養と藻体の高付加価値化を実現する。微細藻類は高いCO2固定能を有するが、屋外培養においては藻類捕食者等の混入が問題となっている。また、培養コストがネックとなり、利用形態が高価な機能性食品等に限られている。弱酸性化海水を利用した培養系を構築することで他生物の増殖を防止し、かつ安価な培養を可能する。さらに遺伝的改変により機能性飼料等への用途の拡大を行う。
【委託先】国立遺伝学研究所
【期間】2017〜2021年度
【費用】180百万円 (36百万円/年)
【事業名】JST 「未来創造事業:「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現」

まとめ

燃料以外のプロジェクトの傾向としては、CO2の有効利用に関するもの、ターゲット生産物を燃料よりも高付加価値をもつ物質としたもの、が目立つ。トレンド的にみれば、『排CO2の高付加価値物資への変換技術の開発』と言えるだろう。

CO2を固定化し、有価物に変換する技術とは、光合成の仕組みそのものであり、その対象が単位面積当たりの光合成効率の最も高い微細藻類に行き着くのは決して不思議な話ではない。光合成よりも効率的なCO2変換技術ができない限り、引き続きCO2変換技術としての微細藻類培養技術の研究開発は進んで行くことになるだろう。また、培養技術の研究に加え、得られた微細藻類バイオマスからの有価物の抽出・分離・精製技術の開発、得られた有価物の機能性・安全性の検証、といった周辺技術の開発にも予算が投下されていくことが予測される。

日本は伝統的に海藻を食べる食文化を持つため、微細藻類由来の製品に対しても市場が受け入れやすい土壌がある。このアドバンテージをうまく活用しながら、マーケティング活動をおこなっていくことが産業構築に向けた鍵になっていくことだろう。

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