日本発!下水を利用した珪藻培養のパイロットプラントの完成 -兵庫県立大学チームの取り組み-

日本発!下水を利用した珪藻培養のパイロットプラントの完成 -兵庫県立大学チームの取り組み-

これまでトレンド記事は海外のものを紹介することが多かったが、今回は日本からのニュースをお伝えしたい。

珪藻培養のパイロットプラントの完成

共同発表:珪藻のフィジオロミクスに基づく褐色のエネルギー革命のためのパイロットプラントの完成~培養コストの大幅低減による低炭素社会実現と有用物質の生産~

共同発表:珪藻のフィジオロミクスに基づく褐色のエネルギー革命のためのパイロットプラントの完成~培養コストの大幅低減による低炭素社会実現と有用物質の生産~


先月1月25日(木)に兵庫県立大学で記者発表があり、菓子野准教授らの研究グループが珪藻の一種であるCheatoceros gracilisを培養するためのパイロットプラントを完成させたことが報告された。C. gracilisは珪藻の一種であり、エビの初期餌料や二枚貝の餌として利用されている海産性の藻類だ。

今回のパイロットプラントには、ハウス内に約3.5x6メートルのプール型培養槽、約2x10メートルのレースウェイ型培養槽の2タイプの培養槽が設置されており、5〜8トンの培養が可能とのことだ。

このパイロットプラントは下水処理場の隣に隣接しており、処理場に流入する汚水、および汚水処理により発生するCO2を用いた培養試験ができることが特徴だ。下水中に含まれる窒素やリン酸を栄養塩として使って培養することで、培養成分のコストを抑えた培養が可能となる。

珪藻培養のパイロットプラントの外観図 / 兵庫県立大学提供

下水で藻類を培養する、という試みは特段珍しい話ではない。海外でも国内でも下水中に含まれている栄養源を利用して大量培養系の構築を試みる取り組みは以前から行われている。実際、下水を用いた培養というのは絵としては美しいが、現実的にはなかなか難しい。下水中には確かに栄養源はあるのだが、その濃度というのは藻類の培養に最適化されているわけではないので、高い生産性を出すにはある程度の濃度調整をする必要が出てくる。今回用いる下水自体の水質がどれだけ安定しているかも一つポイントになるだろう。

また、下水には多くの他の微生物が混じっているので、それらが混在する中で狙った種を優先種としてキープさせるには、高い培養技術が求められる。ただ、今回は海産性のC. gracilisを用いているので、海水と混ぜる事によって下水(=淡水)由来の微生物の繁殖はある程度抑制できる可能性がある。この際、塩濃度の条件設定もキーとなってくるだろう。今回のパイロットプラントを使った実証で最適化条件を見つけられる事を期待したい。

同大学におけるその他の取り組み  -C. gracilisの遺伝子組換え技術の確立とマイクロバブルを用いた抽出プロセスの開発-

なお、菓子野准教授のグループは、パイロットプラントを設置する前から、C.gracilisの基礎研究を体系的に進めている。2015年にはエレクトロポレーションを用いたC. gracilisの遺伝子組換え技術の確立に世界で初めて成功し、汎用的な形質転換ベクターも開発している。

遺伝子組換えのターゲットとしては、リシノール酸(C18H34O3)を生産させている。

リシノール酸(C18H34O3)の骨格

リシノール酸はω-9型の非飽和脂肪酸で、天然ではトウゴマの種子に存在する。ひまし油の構成脂肪酸の約90%はリシノール酸のトリグリセリドである。工業的にはひまし油の加水分解または鹸化によって作られている。鎮痛剤や抗炎症剤としての効果があり、薬としても用いられる。

左写真:ひまし油 中央写真:トウゴマ 右写真:トウゴマの種子

さらに同研究グループは、マイクロバブルを用いた新規な抽出プロセスも開発している。これは培養液内でマイクロバブルを発生させ、細胞を破壊し、発泡した泡画分に成分(油脂)が濃縮される、という仕組みとなっている。通常、マイクロバブルは藻体の浮上や光合成効率の活性化に用いられていたが、このように細胞破砕と濃縮に用いた例はなく、昨年特許*も出願されている。
*特願2017-038278:有用物質回収方法及び有用物質回収装置

今回は下水と組み合わせた大量培養のためのパイロットプラントに関する記者発表であったが、培養から出口となる高付加価値なターゲット、さらに低コストな回収プロセスまで一貫して開発を進めているところも把握しておきたい。点ではなく、それぞれの技術が線としてちゃんと繋がっているのは、目標としている構想がしっかりしているからだろう。

珪藻を軸にした再生可能物質生産に基づく低炭素社会 / 兵庫県立大学提供

 

日本にはこのような優れた研究をしているチームが複数あるが、これらの優れた知見や工夫が他のチームにも共有されるような場を作っていくことが、国として藻類研究の底力を強化することに繋がるはずだ。Modiaもその一端となれるよう、海外動向だけじゃなく、国内の優れた技術の把握と共有にさらに力を入れていきたい。


参考画像
・”Castor oil“©2007 Pete Markham/CC BY 2.0
・”Ricinus communis001”©2005 Andel 2005/CC BY 3.0
・”Seeds of Ricinus communis“©2012 Schnobby/CC BY 3.0

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