アスタキサンチンとは? -健康機能と市場の動向-

アスタキサンチンとは? -健康機能と市場の動向-

前回の記事では、ヘマトコッカスという藻類が赤色の抗酸化色素「アスタキサンチン」を蓄える特徴があることをお伝えしました。

今回はそのアスタキサンチンを掘り下げていきます。アスタキサンチンは藻類の抽出物として国内外で産業化が進み、いま多くの注目を集めている物質です。

1.アスタキサンチン(Astaxanthin)とは

アスタキサンチンの骨格イソプレン(a)とアスタキサンチン(b)の構造式 / 筆者作成

アスタキサンチンは、カロテノイドの一種キサントフィル類の脂溶性物質の赤橙色の色素で、化学式 はC40H52O4です。

カロテノイドとは、イソプレン骨格の炭素数が40個まで連なった共役二重結合を持つ長鎖の一群の色素の総称です。このカロテノイドの中で、炭化水素のみを持つものをカロテン、酸素を含む官能基(ヒドロキシ基[-OH]、ケト基[=O]、カルボニル基[−C(=O)−]など)を含むものをキサントフィルといいます。今回取り上げたアスタキサンチンは共役二重結合の数がカロテノイドの中で最多の13個あり、両末端環にケト基とヒドロキシ基を持つ構造(上図参照)をしています。

また、カロテノイドは抗酸化機能に重要な役割を果たすことが知られています。その中でもアスタキサンチンは、抗酸化機能を持つ部位が他のカロテノイドよりも多いことが報告されています。後ほどお話しますが、この抗酸化機能を利用した健康に関する研究も進められています。

2.様々な動物に含まれているアスタキサンチン

海釣りの餌に使われるオキアミ、サーモン、茹でたエビ、カニといった、魚介類の赤い部分の多くは、アスタキサンチンの赤色です。また、フラミンゴ*のピンク色も、アスタキサンチンによるものです。しかし、動物はアスタキサンチンを自分で作り出すことはできません。では、これらの生き物はどこからアスタキサンチンを手に入れているのでしょう?*ケニアのコフラミンゴの様子を特集したこちらの記事も併せて参照ください

アスタキサンチンを持つ動物たち  (a)オキアミ、(b)サーモン、(c)カニ、(d)フラミンゴ

自然界でアスタキサンチンを生成できる生物はヘマトコッカスなどの微生物だけです。つまり、アスタキサンチンの赤色を持つ動物には、アスタキサンチン(もしくはその元となるカロテノイド)を持つ藻類を直接または間接的に摂取しているのです。例えば、アスタキサンチンを持つ藻はオキアミといった小型の動物に食べられ、そのオキアミはエビやサーモンといった中型の動物に食べられ、これら中型の動物はフラミンゴといった大型の動物に食べられるのです。

ちなみに、エビやカニといえば、青みがかった色を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。実はエビやカニは、生きている間は体内のアスタキサンチンがタンパク質(オボルビン、クラスタシアニン)と結合するために黒っぽい青灰色をしているのです。そして、茹でる・炒めるなど熱を加える過程でタンパク質が変性し、アスタキサンチンが遊離されて本来の赤い色が出てくるのです。

3.アスタキサンチンの健康機能

アスタキサンチンの抗酸化作用はビタミンEの約550倍から約1,000倍、βカロテンの約40倍という報告もあり、「自然界最強の抗酸化成分」といわれ、近年注目が集まっています。またその抗酸化力の強さから「老化抑制、免疫機能の促進、筋肉疲労の改善」といった、アスタキサンチンの健康への効果に着目した研究も進められています。

アスタキサンチンがもたらす健康への効果 / Yamashita ,E (2013) を元に作成

4.アスタキサンチンの産業化

アスタキサンチンの市場動向

アスタキサンチンの生産は、主に化学合成品と藻類由来の2種類に分かれます。化学合成品によるアスタキサンチン(約10%含有)の価格が1kgあたり約6,000円(当社調べ)に対して、微細藻類由来のアスタキサンチン(約5%含有)の価格は1kgあたり10〜15万円程度が相場(『食品と開発』, vol.52, 2017)となっています 。また、アスタキサンチン原料市場約480億円(2016年時点)の内、微細藻類由来のアスタキサンチンは約100億円と推測されています。

現在のアスタキサンチン生産は化学合成品が主流ですが、化学合成品よりも天然品が消費者に好まれる市場傾向の中、微細藻類の安価な大量培養が確立して生産コストが化学合成に匹敵するようになれば、現在のアスタキサンチン市場は微細藻類由来のものにとって変わると予測されます。

アスタキサンチンの商品化

抗酸化機能がある赤色色素のアスタキサンチンは、健康食品や化粧品(下記紹介)、養殖魚の赤色の色揚げ剤として国内外で商品化されています。

 

一般的なトレンドとして合成品よりも天然品の需要が拡大している中、アスタキサンチンを使った商品は今後も増えていくことが予想されます。

 

以上、今回はアスタキサンチンについて紹介しました。ヘマトコッカス由来のアスタキサンチンは現在特に注目されている藻類産業の一つです。大学や企業での研究も盛んに行われているので、今後さらに藻類由来のアスタキサンチンは注目されることでしょう。

藻類由来のアスタキサンチンについては他にも取り上げたい話題が幾つもあるので、またの機会にご紹介できたらと思います。


参考資料
・高市真一, 三室守, & 富田純史. (2006). カロテノイド-その多様性と生理活性.
・Kuhn, R. (1938). The coloring matters of the lobster (Astacus gammarus L.). Z Angew Chem, 51, 465-466.
・Yamashita, E. (2013). Astaxanthin as a medical food.  Functional Foods in Health and Disease, 3(7), 254-258.

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