抗ウイルスが報告されている藻類由来物質スピルラン-スピルリナの効能-

抗ウイルスが報告されている藻類由来物質スピルラン-スピルリナの効能-

新型コロナウイルスの流行から、ウイルスとの共存をしていく「新しい生活様式」が求められています。ウイルスの感染予防を体の内側から実行することも必要になってくるでしょう。スピルリナといった抗ウイルス活性をもつ食材を常日頃から摂りいれることは私たちの免疫力向上に大いに貢献します。

今回は、スピルリナ特有のラムナン硫酸「スピルラン」の性質と抗ウイルスの仕組みについて説明します。

スピルリナ特有のラムナン硫酸「スピルラン」

スピルリナから抽出された抗ウイルス物質「スピルラン(Spirulan)」は、ラムノース(Rhamnose)が主で、他にアコフリオース(Acofriose, 3-O-メチルラムノース)、ウロン酸(Uronic acid, 具体的にはグルクロン酸とガラクツロン酸)が結合している多糖が骨格であり、ラムノース部分には硫酸基(-SO3-)が結合しているラムラン硫酸と言われる硫酸化多糖の一種です。

スピルランは親水性の硫酸基、疎水性のメチル基が存在することから、両親媒的性質をもっていると推測され、この特徴的構造が生物活性の発現に関与していると考えられます。今までに、抗ウィルス・抗真菌・抗菌・コラーゲン形成・細胞再生・紫外線防御といった特性を持つことが報告されています。

スピルランの構造(林2008より改変)

スピルランの抗ウイルス活性メカニズム

今回取り上げるスピルランの抗ウイルス活性の理由として、硫酸化多糖類が負の電荷をもつ性質が関係していると考えられています。

ウイルスの宿主細胞への感染は、ポリアニオン(全体として負(マイナス)電荷をもつ物質)のウイルス表面タンパク質が、細胞表面の正(プラス)電荷の糖タンパク質(スパイクタンパク質やヘマグルチニンタンパク質)に吸着し、ウイルスが侵入して始まります。感染メカニズムについて詳しくはこちらをご覧ください。

負の電荷をもつ硫酸化多糖は、細胞表面の正の電荷をもつ糖タンパク質に対してマスキングの役割を果たし、ウイルスの宿主細胞への吸着・侵入を防ぐ役割があると言われています。また、正の電荷をもつウイルス表面タンパク質に負の電荷をもつ硫酸化多糖が直接結合して宿主細胞への感染を阻害する抗ウイルス活性のメカニズムも報告されています。

硫酸化多糖の抗ウイルス活性メカニズム
A.ウイルスの侵入メカニズム
B.硫酸化多糖による抗ウイルス活性メカニズム
(Mathieu et al. 2015より改変)

スピルランの抗ウイルス活性の研究例

スピルランの抗ウイルス活性については、ヘルペスウイルス(HSV)を対象に研究がなされています。HSVは医学的にも重要ですが、様々な解析手法が確立されており、最先端かつ多面的な研究が可能であることからウイルス学において多く研究されています。ウイルスにも分類がありますが、HSVの構造はコロナウイルス、インフルエンザウイルスと同じくカプシドエンベロープに包まれたエンベロープウイルスの分類に入り特徴が似ています。

エンベロープウイルスの構造
(「【バイオのプロが解説】ウイルスとは?-似た症状でも治療方法が違うウイルス、細菌、真菌の違い-」参照)

1)エンベロープウイルスに対して抗ウイルス活性が示された
スピルランはヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(HCMV)、はしかウイルス(Measelesvirus)、ムンプスウイルス(Mumsvirus)、インフルエンザウイルス(IFV)、HIVウイルスの6種類のエンベロープウイルスに対して、ウイルス増殖抑制作用が示された。一方、ポリオウイルス(Poliovirus)、コクサッキーウイルス(Coxackievirus)の2種のノンエンベロープウイルスにはウイルス増殖抑制作用は示されなかった。

2)宿主細胞への吸着・侵入時に抗ウイルス活性がみられた
スピルランはHSV感染前から培養液に存在した場合の方が、抗ウイルス活性が強かった。このことから、スピルランの標的段階は宿主細胞への吸着・侵入段階と推測された。

3)感染後も抗ウイルス活性がみられた
HSV感染前から培養液に存在した場合よりは弱いが、感染2時間後にスピルランを培養液に添加した場合でも抗ウイルス活性がみられた。また、スピルランは宿主細胞内に選択的に取り込まれ、抗ウイルス活性を保持していた。このことから、スピルランはウイルス感染後のウイルス複製段階も標的にすると推測された。

4)糖鎖分子の立体構造が活性発現に重要な役割をする
スピルランから金属イオンを除去した場合や、脱硫酸化したところ、HSVに対する抗ウイルス活性は失われた。このことから、金属イオンと硫酸基との結合により形成される糖鎖分子の立体構造が活性発現に重要な役割を果たしていると示唆された。

5)スピルランは経口投与でも抗ウイルス活性を示した
マウスにHSVを感染させ、スピルランを経口投与したところ、用量依存的に病変の進行が抑制された。

 

今回はウイルスが体内に侵入するのを防いでくれる「抗ウイルス活性」についてのスピルリナの機能を紹介しました。海外では、スピルランに着目した商品も発売されています。

 

「新しい生活様式」に、スピルリナのような栄養素が豊富、様々な効能の知られる食材を新しく加えてみてはいかがでしょうか?
※スピルリナの効能についてはこちらをご覧ください。

 

 

<参考文献>

Hayashi, T., Hayashi, K., Maeda, M., & Kojima, I. (1996). Calcium spirulan, an inhibitor of enveloped virus replication, from a blue-green alga Spirulina platensis. Journal of natural products59(1), 83-87.
Gershwin, M. E., & Belay, A. (Eds.). (2007). Spirulina in human nutrition and health. CRC press.
Mathieu, C., Dhondt, K. P., Châlons, M., Mély, S., Raoul, H., Negre et al (2015). Heparan sulfate-dependent enhancement of henipavirus infection. MBio6(2), e02427-14.
Wang, W., Wang, S. X., & Guan, H. S. (2012). The antiviral activities and mechanisms of marine polysaccharides: an overview. Marine drugs10(12), 2795-2816.
林利光. (2008). 天然物の抗ウイルス活性評価と応用に関する研究. YAKUGAKU ZASSHI128(1), 61-79.
川口寧. (2010). 単純ヘルペスウイルス (HSV). ウイルス60(2), 187-196.
高橋忠伸. (2014). ウイルス感染における糖鎖の機能解明. YAKUGAKU ZASSHI134(8), 889-899.

<サムネイル画像>
Mathieu et al. 2007より改変

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