【バイオのプロが解説】ウイルスとは?-生き物との違いとコロナウイルスの増殖機構-

【バイオのプロが解説】ウイルスとは?-生き物との違いとコロナウイルスの増殖機構-
Modia(藻ディア)を運営している私たち「ちとせグループ」は、”ちとせ研究所”を中核とするバイオベンチャー企業群です。生き物(主に微生物、藻類、動物細胞)の研究開発から事業の展開までを通貫して行えるバイオのプロフェッショナル集団です。

 

ちとせグループが社会に貢献できる1つとして、専門的な正しい知識を、わかりやすい言葉に変えて、みなさまにお伝えすることだと考えています。

Modia(藻ディア)の場をお借りして、みなさまに知ってもらいたい知識をお届けします!

ウイルスって何でしょうか?

今回の記事で1番知ってもらいたいことは、「ウイルスは生き物ではない」ことです。
そもそも、生き物とは何なのか?この問いは、生物学者の究極のテーマともいえるくらい大変定義が難しい問題です。今回は生き物とは何かをみることで、ウイルスとは何かをご説明します。

生き物とは

「生き物」の共通点はいくつも見出せます。そこから選りすぐって「生き物」の定義を強いてするなら、「細胞を基本構造として、自己複製ができるもの」と言われています。

「細胞を基本構造とする」
というのは、以下の特徴を共通点にもつ「細胞」が最小単位となっているということです。
・リン脂質二重層の細胞膜で囲まれている。
・核酸(DNA・RNA)を有する。
・核酸の遺伝情報から自らリボソームというタンパク質合成装置を作り、タンパク質を合成できる。
・そのタンパク質や取り込んだ物質を反応させて自分に必要な物質を生み出す様々な反応系(=代謝系)をもつ。

「自己複製ができる」
というのは、自分自身で内容物を増やし(細胞小器官の複製)、切り分ける(分裂)一連の仕組みをもっているということです。

ウイルスとは-ウイルスあっての生き物の定義-

ウイルスとは、「核酸(RNAまたはDNA)それを包むタンパク質の外被からなる粒子。(細胞の分子生物学より)」とされます。これだとよくわからないと思いますが、生き物の定義を通してウイルスをみると、わかりやすくなります。

実は、生き物を定義するとき、反例として挙げられる代表例がウイルスです。ウイルスは増殖するので一見生き物のように見えますが、「自己複製ができない」ため生き物とはみなされません。ウイルスを通して、初めて生き物の定義が確実になるのです。生き物とウイルスの関係は、まるでニワトリが先かタマゴが先か問題のようにもみえます。

ウイルスの特徴の「自己複製できない」ということは、どういうことでしょうか?
ウイルスの増殖方法は、細胞に感染して細胞内に入り込み、細胞のエネルギーを使い、細胞の代謝系を利用してウイルスの構成成分を複製します。ウイルスは細胞の感染なしには何もできません。これが「自己複製できない」ということです。
ウイルスの増殖メカニズムは、次項で詳しく説明します。

細胞とウイルスでは基本構造が違うので、この2つの比較だけなら基本構造だけで明瞭な区別はできます。しかし、細菌性や真菌性といった生き物が原因となる病気にかかった時と、ウイルス性の病気にかかった時とでは、治療法が基本的に異なります。その理由が「自己複製できるか」「自己複製できない」に関わってきます。
ウイルス、細菌、真菌の病気と治療の観点からの比較について、詳しくはこちらをご覧ください。

ウイルスの定義に自己複製できないことは書かれませんが、「ウイルスは生き物ではない」=自己増殖できないということをわかった上で、細菌性、真菌性の似た症状の病気と根本的に違うことを皆様には理解してもらいたいと思います。

ウイルスの増殖メカニズム-宿主細胞に依存する複製過程-

細菌や真菌の増殖過程は、宿主細胞(感染される側の細胞)に取り込まれて、もしくは宿主細胞の表面で、自分の力で細胞構成成分を合成し、2分裂で増殖します。そのため、徐々に細菌や真菌の数は増えていきます。

ウイルスは生き物ではないですが増殖します。これは、宿主細胞の力を借りて、宿主細胞にウイルスの合成してもらうのです。ウイルスは生物にくらべて非常に簡単な構造をしているので、合成時間も短いです。生物のように分裂で増殖するのではなく、ウイルス構成成分を作って、パッケージングすれば完成です。1個のウイルスが宿主細胞に感染すると1,000個もの子ウイルスが生産されます。増殖が早いインフルエンザウイルスでは、24時間で1万個に達すると言われています。
ウイルスの増殖機構を、風邪の原因の一つでもあるコロナウイルスを例に示します。

※肺炎を引き起こす新型コロナウイルスは、主に咽頭や肺の細胞を宿主細胞にして、図で示す複製過程で増殖すると考えられます。
※新型コロナウイルスの宿主細胞側の受容体はACE2(アンジオテンシン転換酵素2;angiotensin-converting enzyme 2)であることがわかっています。

  1. ウイルス表面のスパイクタンパク質(S)とヘマグルチニンタンパク質(HE)が宿主細胞のN-アセチルノイラミン酸と受容体をそれぞれ認識し、結合する。
  2. ウイルスが宿主細胞に取り込まれる。その機構がウイルス膜と宿主細胞膜との膜融合によるか、エンドサイトーシスによるかは不明である。
  3. ウイルスから持ち込まれたRNAの一部は宿主細胞リボソームに結合し、RNA合成酵素を作る。
  4. 作られたRNA合成酵素は持ち込まれたウイルスRNAを鋳型にRNAを複製する。これは子ウイルスの核酸RNAとタンパク質合成用mRNAとして用いられる。
  5. 細胞質(cytoplasm)中の宿主リボソームにmRNAが結合し、子ウイルスのヌクレオカプシドタンパク質(N)が作られる。子ウイルスの核酸RNAと結合し、宿主細胞の小胞体(ER)に運ばれる。また、ER膜に付着している宿主リボソームにmRNAが結合し、子ウイルスの膜タンパク質(M、S、HE)が作られER膜に組み込まれる。ERでヌクレオカプシドを包み込むようにER膜が切り取られ、子ウイルスが作られる。
  6. ERからゴルジ体を経由してエキソサイトーシスにより宿主細胞から細胞外に放出される。
ちとせグループでは、これからも、みなさまに知っていただきたいバイオの知識をお伝えしてまいります!

<参考資料>
細胞の分子生物学(第4版), ニュートンプレス, 2004年
https://www.med.kindai.ac.jp/transfusion/ketsuekigakuwomanabou-252.pdf
http://www.scitk.org/subsides/Natural_Science/Biology/diff_bac_fung_vir/diff_bac_fung_vir.phphttps://en.wikipedia.org/wiki/Coronavirus
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/covid19_mizugiwa_200221.pdf
https://en.wikipedia.org/wiki/File:Coronaviruses_004_lores.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:EscherichiaColi_NIAID.jpg
https://pixnio.com/science/microscopy-images/close-up-of-an-asexual-aspergillus-sp-fungal-fruiting-body
https://en.wikipedia.org/wiki/Angiotensin-converting_enzyme_2
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Coronavirus_replication.png

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