日記2:燃料として使う場合の温室効果ガスどうやって計算するんだ?

こんにちは。正直MATSURIの新人担当者のサリーです。サリーは生物のことは得意なのですが、環境負荷の評価や関連する活動についてはまだ素人です。


~前回のあらすじ~

学ぶとは、「マネをする」ところからということで、社内にある環境負荷に関する報告にあったGREETというソフトを触ってみることにしました。インストールするだけでも大苦戦でしたが無事インストールが完了をしてソフトを動かせるようになりました!

~あらすじ終わり~


GREET起動!

このGREETですがソフトを起動すると、すでに様々な物の数値・フローが入っています。例えば、トウモロコシエタノールSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)を見てみましょう。ProductsからSustainable Aviation Fuel(SAF)>Ethanol- To Jet: Satandalone from Cornを選びます。

なるほど。なんかカッコいい図が出てきました。でもよくわかんない。( ノД`)シクシク…。わからないときはおとなしくマニュアル[1]を読みます。100ページを超えていますが張り切って読みます💪。

GREETはアメリカのエネルギー省傘下にあるアルゴンヌ研究所が作成・管理しています[2]。エネルギー省傘下ということで、「燃料・エネルギー」が生産されて消費される(燃やされる)までに排出される温室効果ガスや酸性雨の原因となる物質や使用される水の量を計算できるものとなっています。環境負荷の計算をするためのソフトは世界に様々ありますが、「燃料」用途の環境負荷計算ではGREETがよく使われている印象です。ということはMATSURIで作ろうとしているものは燃料だけでなく様々な生活用品や食品も作るから他のソフトやデータベースの使い方や仕組みも勉強しないとってこと?これは大変だ…😅。

 

燃料のライフサイクルを考えてみます。燃料として使える状態に生産するまでと、何の燃料として使うかの大きく2つに分けられます。これを専門用語でWTP(Well -to Pump:油田からポンプまで)とWTW(油田からホイールまで(つまり走行段階まで))と言います。WTWにさらに車両製造に関連する排出量を足したものをC2G (Cradle -to -Grave ゆりかごから墓場まで)と言います。 このソフトの「WTP Results」タブと「WTW and C2G Results」タブに対応しています。そして「WTP Results」タブで右下に出てくるカッコいい図がこういうフローで燃料をつくるよということになります[3]。そして各工程で原料の量や電気の使用量が数値として入っています。原料・エネルギーを作るのに排出するGHG量がデータセットとしてソフトに入っており、(多くの原料・エネルギーに対応しているが、ないものもある)それを使うことで計算ができるようになっています。そして左下にある「Emissions」で二酸化炭素排出量や酸性雨の原因となるSOxの量等が表示されます。なるほど、ちょっと分かった!

フローをクリックすると表示されるウィンドウ。使う原料やエネルギーの値が入っている。

さて、2023年9月にこのGREETに関する話題がありました。米国のエタノール団体がトウモロコシエタノールSAFについて、最新のGREETモデルの数値を使うことをアメリカ政府に求めたのです[4]。

まず、サリーはこの話を聞いて「???もともとGREETの数値使ってるんじゃないの~?いまGREETを使っていてGREETを使ってほしいってどういうこと~?」と混乱しました。

何に混乱しているかの、現状を整理します。米国のエタノール団体の要求は「トウモロコシベースのエタノール SAF(持続可能な航空燃料sustainable aviation fuel)のGHG排出量(温室効果ガス:二酸化炭素だけでなく、メタン、代替フロンなども含める)の値をCORSIAモデル代わりに、米国エネルギー省のGREET モデルを使用してはどうか。」というものです。

 

まず、「XXモデルを使用する」という部分について背景を簡単に説明します。この記事においてモデルというのは

1.SAFっていうからには従来(化石資源由来)と比べてX%GHG排出量が削減できるって言えないとね。2.それにはGHG排出量の計算をしないといけないよね。3.TPO・思想・制度によってどこまで計算に入れるかが違うということが起こるよね。4.ここからここまでをこうやって計算することを「XXモデルを使用する」と言おう。

つまり、エタノール団体は「今はこうやって計算しているけどこっちの計算のほうがいいのでは?」と計算をかえることを提案しているということになります。

CORSIAモデルというものは公式な名前としてはありませんが、CORSIAが採用しているGHG排出量の計算方法というものがあります。。CORSIA[5]は「国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム」の略称です。CORSIAが採用している計算方法から算出される様々な国や地域で生産されるバイオ由来の燃料のGHG排出量の基準値[6]を公表しています。最新のGREETモデルというのは、「GREET.net 2022」バージョンのGREETのことを指していると推測されます。

 

そこでトウモロコシベースのエタノール SAFでCORSIAの基準値と最新のGREETモデルでどういう計算をするのかを調べてみました。藻類からSAFを作るときのGHG排出量の計算の参考になるはず!

 

ここから先の詳しいモデルの違いは後日、MATSURI会員専用ページにて解説します!乞うご期待!

 

ここで、エタノール団体の要望の背景について考えてみたいと思います。2つ排出量の値の違いとアメリカ政府に要請をしていることから、アメリカのエタノール団体の狙いはGREET.net 2022から算出される排出量合計が既存のジェット燃料(89 g CO2e/ MJ )よりも50%以上低い排出排出量であるとして、アメリカ産等トウモロコシエタノールをIRA(インフレ削減法2022年8月成立)の補助金対象のSAFにすることであると推測されます。IRAの補助金・税額控除の額は非常に大きいため、それを意識して積極的に活動をしているのだと思われます。もう一つの狙いとして考えられるのは既存のジェット燃料よりもGHG排出が10%以上低いとしてCORSIA認証のSAF(CEF)を目指すことです。しかし、この場合、要請する先はアメリカ政府ではなくCORSIAを運用するICAO国際民間航空機関です。ここで驚くのが、化石資源由来ではない航空機燃料であっても、国の法令や国際制度によってSAFの基準・認証が違うため、この制度上の対象になるがこちらの制度では対象にならないということが存在します。SAFといっても実際には統一的な見解があるものではなく複数の制度の中にあるというのは知らなかったので驚きました。

 

調べて勉強していく中で感じたことは、温室効果ガスの排出量を計算する方法というのは完全に決まったものではなく、変化しているということです。計算をする側としてはとても頭が痛いですことです。しかし、「こういうことも考慮しないと持続可能とは言えないのでは?」という考え方はMATSURIにとって非常に参考になります。また、「計算方法は複数あるもの・変化しうるもの」であるということは「GHG排出量は〇〇gです」とだけ公表するのは何まで考慮に入れたのかがわからないのであまり誠実ではなさそうです。正直MATSURIは誠実な情報発信をするプロジェクトなので「このようなシナリオの下ではこのようになります」「計算をする際は〇〇モデルを使い、〇〇まで計算に含み××は計算に含めていません」という情報も併せて発信していくのが「正直MATSURI」だなと思いました。

 

また、燃料用途の温室効果ガスの排出量を推定するだけでこんなにも多くのことを考慮し、吟味し、様々なソフトを使うというのに驚き、これから先の道のりの大変さにくらくらしてしまいます。MATSURIが目指す藻を基盤とした持続可能な社会では、もちろん燃料以外にもプラスチック製品のような日用品や人の食べ物としての用途などを想定しています。それらの用途での計算もしないといけません。さらに持続可能性を考えるときには温室効果ガスの排出だけでなく、水の利用問題や食糧との競合問題などについても状況を整理していく必要があります。やることがいっぱいだ!

 

結局、今回はGREETのソフトを起動してマニュアルや関連ニュースや計算方法と対応付けながらGREETのソフトを少し眺めました。ソフトを使って実際の計算をするのはまた今度になりそうです。



次回もお楽しみに!



[1]Argonne研究所が出している公式のUser Guidehttps://greet.anl.gov/files/greet-manual

[2]Office of Energy Efficiency & Renewable EnergyによるGREETの公式説明

https://www.energy.gov/eere/greet

[3]「WTP Results」タブの公式クイックガイド https://greet.anl.gov/greet/gettingstarted/wtp.html

[4]”Ethanol Industry Associations Ask Treasury Secretary To Use GREET Model For Scientific Accuracy”September 14, 2023https://ethanolrfa.org/media-and-news/category/news-releases/article/2023/09/ethanol-industry-associations-ask-treasury-secretary-to-use-greet-model-for-scientific-accuracy

[5]What is CORSIA? https://www.icao.int/environmental-protection/CORSIA/Pages/default.aspx

[6]ICAO document - CORSIA Default Life Cycle Emissions Values For CORSIA Eligible Fuels https://www.icao.int/environmental-protection/CORSIA/Documents/CORSIA_Eligible_Fuels/ICAO%20document%2006%20-%20Default%20Life%20Cycle%20Emissions%20-%20June%202022.pdf

 

written by:サリー

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