米国の藻類燃料研究の変遷 part. 2 (2015-2017年度)

米国の藻類燃料研究の変遷 part. 2 (2015-2017年度)

前回 part. 1では、米国の藻類燃料研究の流れと、2009~2014年度に開始されたプロジェクトを紹介した。

 

今回 part. 2では2015年度から開始されたプロジェクトNo.22〜41の詳細を記す。

微細藻類燃料に関する米国グラント一覧表(2009〜2018)/筆者作成

2015年度採択の助成金

22)Microalgae Commodities from Coal Plant Flue Gas CO2.

【概要】石炭火力発電所(Orlando Utilities Commission Stanton energy Center)からでるCO2を利用して微細藻類培養を行った場合の事業性評価およびLCA(Life Cycle Assessment)評価を行う。また、排ガスを用いた微細藻類培養を行い、家畜飼料およびバイオガス原料としての利用を検討する。
【委託先】<公的機関>Orlando Utilities Commission、Scripps Institution of Oceanography <大学>アリゾナ州立大学*(中核機関)、フロリダ大学 <企業>MicroBio Engineerign社、Lifecycle Associates社、SFA Pacific社
【期間】2015〜2017年
【費用】0.9百万ドル

23)PACE : Producing Algae for Co-products and Energy.

【概要】微細藻類燃料生産の持続可能性を高めるための水回収と栄養素のリサイクル、バイオ発電の共同発電などについての研究を進める。生産量を2倍、副産物により燃料生産コストを1/2、LCA/TEA(Techno Economic Assessment)を通して統合プロセスの最適化を行う。利用する藻類種はChlorella sorokiniana。
【委託先】<公的機関>Los Alamos National Laboratory、Pacific Northwest National Laboratory、New Mexico Consortium <大学>アリゾナ州立大学、コロラド州立大学、ワシントン州立大学、コロラド鉱山大学*(中核機関) <企業>Reliance Industries 社(インド)、Genifuel 社(カナダ)、Pan Pacific社
【期間】2015〜2019年
【費用】9百万ドル

24)MAGIC : Marine Algae Industrialization Consortium. Combinning biofuels and high value byproducts to meet RFS.

【概要】微細藻類から抽出される油の生産コストを下げるために、タンパク質などの副産物の価値を最大限にする必要がある。ターゲットは以下の通り (i)ドロップイン燃料、基礎製品 (ii)タンパク質含有量の魚粉に相当し、大豆および他のタンパク質の食事よりも生化学的に優れたサケ飼料成分 (iii)タンパク質含量において一般に使用される大豆より優れており、他の重要な微量栄養素を含む家禽飼料成分 (iv)大豆、米および他の植物ベースの代替製品と同等のタンパク質含有量を有​​するが、必須脂肪酸および微量栄養素の含有量が優れている、ヒト用の乳製品代替食品。3つの副産物はすべて燃料にほぼ比例しているため、商業規模で実行可能なソリューションとなる。
【委託先】<大学>ベントレー大学、バックネル大学、コーネル大学、ハワイ-ヒロ大学、ハワイ-マノア大学、南ミシシッピ大学、デューク大学*(中核機関)、テキサス大学オースティン、ノード大学 <企業>ADM社、Shell社、Valicor社
【期間】2015〜2019年
【費用】5.2百万ドル

25)Atmospheric Carbon Dioxide (CO2) Capture and Membrane Delivery project.

【概要】微細藻類生産性向上のために空気中から二酸化炭素を取り込み、濃縮する技術の開発を行う。濃縮は樹脂を使って行い、炭酸水素塩として蓄積させ、バブルレスで90%以上を培地に溶かし込むシステムを検討している。
【委託先】アリゾナ州立大学
【期間】2015〜2018年
【費用】1百万ドル

26)Integrated pest management for early detection algal crop production.

【概要】細藻類の安定培養に向けた生産池への外敵侵入や病原菌感染の早期自動発見システムを開発するための開発を行う。具体的には質量分析(MS)やqPCRなどを用いた測定を進め、発見のタイミングや感度について実証する。
【委託先】<公的機関>Sandia National Laboratories <大学>カリフォルニア大学サンディエゴ校*(中核機関) <企業>Thermo scientific社、Qiagen社
【期間】2015〜2019年
【費用】0.76百万ドル

27)Continuous biological protection and control of algal pond productivity.

【概要】微細藻類の生産性向上につながる共生微生物を用いた「プロバイオティック」細菌の開発を目指す。屋外池での捕食者の繁殖は微細藻類の年間バイオマス生産性の30%の喪失をもたらす可能性があるため、捕食者を予防するための一貫したメカニズムを明らかとし、バイオ燃料コストを1ガロンあたり減少させることを目指す。
【委託先】<公的機関>Lawrence Livermore National Laboratory*(中核機関)、Sandia National Laboratories、Joint Genome Institute <大学>カリフォルニア大学デービス校 <企業>Heliae Development
【期間】2015〜2018年
【費用】0.7百万ドル

2016年度採択の助成金

28)A novel platform algal biomass production using cellulosic mixtrophy.

【概要】乾燥地帯での閉鎖型バイオリアクター内の高温環境でも適合する耐熱性微細藻類(Galdieria sp.)をイエローストーン国立公園から単離。セルロース由来の糖類を利用した混合培養で培養し、LCA及びTEAを行う。
【委託先】アリゾナ州立大学
【期間】2016〜2018年
【費用】2百万ドル

29) Direct photosynthetic production of biodiesel by growth-decoupled cyanobacteria.

【概要】遺伝子組換えSynechocystis sp.PCC6803を用いて、独立栄養条件からラウリン酸エチルの生産を目指す。脂肪酸代謝の改変及び多糖類生産の低減によって生産効率の向上を行う。
【委託先】アリゾナ州立大学
【期間】2016〜2018年
【費用】1.8百万ドル

30)Development of algal biomass yield improvements in integrated process -Phase II

【概要】新型オープンレースウェイポンドでの培養および現時点におけるベストプロセスの組み合わせを用いた微細藻類燃料生産開発の実証試験を行う。品種改良、ポンド改良、新しい乾燥・抽出オペレーションが鍵となる。1エーカー(≒ 4,000m2)あたり5,000〜8,000ガロン(≒ 19,000〜30,000リットル)の粗油生産を目指す。
【委託先】<公的機関>Pacific Northwest National Laboratories、National Renewable Energy Laboratory <大学>カリフォルニア大学サンディエゴ校 <企業>TSD Management Associates社、General Electric社、Global Algae Innovations 社*(中核機関)
【期間】2016〜2019年
【費用】6.25百万ドル

31) Production of biocrude in an advanced photo bioreactor based biorefinery.

【概要】シアノバクテリアの生産性の向上、バイオマスのバイオ燃料中間体への変換、およびバイオリアクターシステムのコスト削減の開発を行う。ターゲットはエタノールで、1エーカー(≒ 4,000m2)あたり年間4,000ガロン(≒ 15,000リットル)の生産を目指す。
【委託先】Algenol Biotech LLC社
【期間】2016〜2019年
【費用】5百万ドル

32)Integrated low-cost and high-yield microalga bofuel intermediates production.

【概要】排水処理、高付加価値な副産物、CO2削減の統合型のシステムによる実用化検討を行う。藻類の品種改良により炭水化物及び脂質の生産性をあげ、混合栄養培養によって微細藻類の生産性を上げる。また変換に関しては抽出、発酵及び残渣の水熱処理によって全てのバイオマスを利用する。2020年までに1エーカー(≒ 4,000m2)あたり年間3,700ガロン(≒ 14,000リットル)の粗油生産を目指す。
【委託先】MicroBio Engineering 社
【期間】2016〜2019年
【費用】5百万ドル

33)Algae production CO2 absorber with immobilized carbonic anhydrase.

【概要】低コストな微細藻類生産のために、火力発電所からのCO2を屋外レースウェイポンドに効率的に供給させる方法を検討する。 具体的にはcarbonic anhydrase と呼ばれる酵素を用いて行う。
【委託先】Global Algae Innovations 社
【期間】2016〜2019年
【費用】0.9百万ドル

2017年度採択の助成金

34)Rapidly engineer strains that grow robustly in seawater, resist contamination and predation, and accumulate substantial amounts of energy-rich components.

【概要】シアノバクテリアの遺伝子組み換えを行い、脂質生産性を上げる技術を保有。海水中で生産可能な微細藻類を用いて、ワシントン州東部の非生産的な土地での生産に焦点を当てる取り組みに、DOEから1.8百ドルの支援を受けた。
【委託先】<公的機関>National Renewable Energy Laboratory <企業>Lumen Biotechnology社*(中核機関)
【期間】2017年〜
【費用】1.8百万ドル

35)Deliver a tool for low cost, rapid analysis of pond microbiota, gather data on the impacts of pond ecology, and develop new cultivation methods that utilize this information to achieve greater algal productivity.

【概要】池の生態系を構築する微生物を低コストで迅速に分析するためのツールを用い、微細藻類の生産性を向上させる新しい培養技術を開発する。
【委託先】<公的機関>Sandia National Laboratories、Scripps Institution of Oceanography <大学>カリフルニア大学サンディエゴ校 <企業>J. Craig Venter Institute 社、Global Algae Innovations社*(中核機関)
【期間】2017年〜
【費用】不明

36)Valuate rationally designed pond cultures containing multiple species of algae, as well as beneficial bacteria, to achieve consistent biomass composition and high productivity.

【概要】微細藻類の成長を促進する細菌(プロバイオテック細菌)との共生培養によって微細藻類の生産性を倍増させる。プロバイオティック細菌の同定のための新規ハイスループットディクススクリーニング/培養法を実施し、新規生産株のゲノム配列決定を目指す。DOEからの支援額は不明。
【委託先】<公的機関>Los Alamos National Laboratory*(中核機関) <企業>Sapphire Energy社
【期間】2017年〜
【費用】不明

37)Improve the productivity of robust wild algal strains using advanced directed evolution approaches in combination with high-performance, custom-built, solar simulation bioreactors.

【概要】微細藻類の生産性を、高性能、カスタムビルド、ソーラーシミュレーション、バイオリアクターによって改善するための開発を行う。
【委託先】<公的機関>Pacific Northwest National Laboratory <大学>コロラド州立大学、コロラド鉱山大学*(中核機関) <企業>Global Algae Innovations社
【期間】2017年〜
【費用】3.5百万ドル

38)Develop genetic tools, high-throughput screening methods, and breeding strategies for green algae and cyanobacteria, targeting robust production strains.

【概要】遺伝的ツール、ハイスループットスクリーニング法、微細藻類およびシアノバクテリアの生産性改良を目指す。
【委託先】<大学>カリフォルニア大学サンディエゴ校*(中核機関) <企業>Triton Health and Nutrition社、Algenesis Materials社、Gobal Algae Innovations社
【期間】2017年〜
【費用】1.4百万ドル

39)Cultivate microalgae in high-salinity and high-alkalinity media to achieve productivities without needing to add concentrated carbon dioxide.

【概要】高塩分および高アルカリ度の培地で微細藻類を栽培し、濃縮二酸化炭素を添加することなく高い生産性を狙う。また、標的ゲノム編集と組み合わせた代謝モデリングを含む分子ツールキットの開発を進める。
【委託先】<大学>トレド大学*(中核機関)、モンタナ州立大学、ノースキャロライナ大学
【期間】2017年〜
【費用】2.4百万ドル

40)Ecologically engineer algae to encourage growth of bacteria that efficiently remineralize dissolved organic matter to improve carbon dioxide uptake and simultaneously remove excess oxygen.

【概要】溶解した有機物を効率的に再石灰化して二酸化炭素の取り込みを改善し、過剰の酸素を除去する細菌の増殖を促進させる開発を進める。
【委託先】Lawrence Livermore National Laboratory
【期間】2017年〜
【費用】1.5百万ドル

41)RACER : Rewire Algal Carbon Energetics for Renewables.

【概要】微細藻類生産性の向上、バイオマス組成の最適化、およびディーゼル用の脂質品質向上のためのコスト削減するための異なる種類の微細藻類脂質の抽出および分離を行う。利用する藻類種はDesmodesmus armatus.
【委託先】<公的機関>National Renewable Energy Laboratory <大学>コロラド州立大学、コロラド鉱山大学*(中核機関)、アリゾナ州立大学 <企業>POS Bio-Sciences社、Sapphire Energy社
【期間】2017年〜
【費用】3.5百万ドル

最後に

米国での微細藻類燃料研究については、2009、2010年と数十億円クラスの大型の予算投下が発生したことで本格的に開始された。この時は、企業側が先行して微細藻類燃料生産に取り組んでいたため、異なる攻め方をしていた微細藻類ベンチャー企業のトップ3社(Sapphire Energy社、Algenol Biofuel社、Solazyme社)とall USA体制の研究コンソーシアムであるNAABB(National Alliance for Advanced Biofuels and Bioproducts)に集中的に予算が投下された。

Sapphire Energy社は大規模オープンポンド(40ha)を用いた微細藻類燃料生産の一貫製造プロセス試験を掲げ、屋外ポンドを用いた大規模実証のパイロット試験の先駆的位置付けとして対象者となった。Algenol Biofuel社は藻体を回収せず蒸発するエタノールのみを回収できるアイデアが評価され、屋外でのバイオリアクターを用いたエタノール生産の実証試験が選ばれた。Solazyme社は従属栄養で生育する微細藻類を用いたBDF生産をすでに行っており、それの拡大生産を実証するための工場建設支援となった。NAABBは、全米の産学官約40のメンバーから構成された大型プロジェクトであり、ベンチャー企業中心に開発が進んでいた微細藻類について、学術的な部分から燃料生産プロセスまで一通りの基盤技術を開発することを目的とした。

中でもSapphire Energy社の取り組みは大規模実証のパイオニア研究として、日本円換算で合計100億円を超える予算をつけて集中的に検討が進められた。この結果、外敵(カビ)のコンタミによる壊滅的な被害を受けて、大規模屋外ポンドでの培養がうまくできないことがわかった。40ha近いポンドをつくって始めたプロジェクトであったが、そのポンドが全面うまって稼働することのないまま終了したのが象徴的である。

このSapphire Energy社の取り組み結果を受けて、外敵による全滅を防ぐための共生を用いた生態系培養の開発や、微細藻類の安定的な培養を助ける共生微生物(プロバイオテイクス)の研究などに予算の対象が移ってきている。その他には栄養源のリサイクルや排水利用、排CO2を用いた培養コストの削減についても予算がついて開発が進んでいる。また、培養システムについても伝統的なレースウェイポンドの進化系に位置する新型ポンド培養システムや、担持体を用いた3次元の培養システムなど新しいタイプの培養システムに対する開発にも予算が投下されている。

なかでも近年ではGlobal Algae Innovation社の開発した新型オープンポンドシステムおよび省エネルギーの下流工程の開発が注目を集めている。2016年以降に始まったプロジェクト全13プロジェクトのうち、5つのプロジェクトにGlobal Algae Innovation社が絡んでいることをみても期待の高さが伺える。

米国は継続した予算投下を続けているが、大きな失敗からも教訓を学びながら国全体として研究開発を前進させているのが特徴といえよう。国全体で課題を把握し、それを解決するためのテーマに集中して予算を投下して知見を得るスタイルは、予算権限を持った中核組織がきちんと機能している証拠でもある。米国の微細藻類研究の強さは、自国での燃料生産という一つの目標に向かって、強い指導力を持った中核組織が体系立った戦略を策定し、そこに必要な予算を投下できる権限も併せ持っているところにあると考えられる。

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