前回までに日本、米国での微細藻類研究の動向を国の予算面から見てまとめてきた。今回から数回に渡ってEUの微細藻類研究の動向を同様な視点から見ていきたいと思う。米国の動向はなんとなくチェックしているけどEUまではなかなか、という方々も多いと思うので参考にしていただければと思う。私も自分で調べながら日本や米国とは異なる戦略で進めているEUの開発動向を知ることができて勉強になった(調べるの大変だったけど、、)。今回はEUでの微細藻類研究の歴史と研究政策の枠組みといったところについて記す。
EUにおける微細藻類研究の歴史
EUの微細藻類研究に対する歴史は長い。1890年にオランダの微生物学者であるバイエリング博士によってクロレラが発見され、その後ドイツが第一次世界大戦時にタンパク質源としてクロレラの培養研究を行っていた。その後、一旦落ち着きを見せたが、第二次世界大戦後の1940年代終わりから世界人口が飛躍的に伸び、1950年代に25億人に届いた際には、小麦や米不足への懸念から食糧源としての微細藻類研究(特にクロレラ)に再び注目が集まった。結局、この食糧危機への不安は「緑の革命」によって落ち着きを見せ、それに伴う形で微細藻類研究に対する注目もトーンダウンしていった。
このようにEUの微細藻類研究の歴史は長いが、食糧危機からくるトリガーが強く、米国のように燃料生産を大々的にうたった研究開発は特に行われてこなかった。しかし、2008年からの米国での微細藻類燃料開発の盛り上がりを受けて、EUでも微細藻類燃料開発に大規模な予算が投入され、それにともなって再び微細藻類研究が活発になってきている。
微細藻類燃料研究から見るEUの研究政策
EUの微細藻類燃料研究は、欧州委員会によって管理される研究開発用の枠組みプログラムによって進められている。枠組みプログラムとは、複数年の研究開発・イノベーションプログラムの方向性を示し、それに基づいて資金配分を行う仕組みである。現在進行中の枠組みプログラムは、2014年から2020年までをカバーする『HORIZON2020』となる。
EUの場合は、欧州委員会主導で枠組みプログラムが作られ、その中から微細藻類関連の予算が出される仕組みとなっている。このため、省庁間の枠組みによる住み分けはなく、プロジェクト単位で研究費が投下される。
EUでは温暖化対策としてバイオ燃料の使用を促進するため2009年に「再生可能エネルギー指令(RED:Renewable Energy Directive)」を定め、輸送用燃料に混合するバイオ燃料の割合を2020年までに10%以上にする義務的目標を設定している。微細藻類燃料は先進型(第二次世代)の非食用作物由来の輸送バイオ燃料としてカテゴリーされているため、微細藻類燃料研究に関しては、再生エネルギー指令の目標に準ずるように進められている。
REDは頻繁に改正されているが、最近ではパリ協定に基づくGHG(Green House Gas)排出削減目標を踏まえて2016年11月に改正提案が行われている。バイオ燃料に関する変更部分は以下の通り。
再生可能エネルギー指令の現行指令と改正案との比較
(バイオジェット燃料関連) 報告書/ 2017年3月 三菱総合研究所
輸送バイオ燃料の例
本改正案によると食用作物由来の第一次世代のバイオ燃料の割合を下げていき、微細藻類燃料も含まれる先進型(第二次世代)のバイオ燃料は導入率を引き上げていく方針が見てとれる。