日米欧の戦略比較
日米欧の予算分布から見る戦略イメージについて図にまとめてみた。横軸に微細藻類のアプリケーションの両極としてEnergy(燃料)とNon-Energy(燃料以外)をとり、縦軸はIndustry(産業)とAcademic(基礎)とした。この時に日米欧の予算戦略のポジションをマッピングしている。米国は燃料研究を柱として、学術的な基礎研究から産業的な応用研究まで幅広く予算をつけて進めている。また、EUは燃料以外として食料・飼料、化粧品原料といった高付加価値物質の研究、かつ産業化を主眼に置いた応用研究に舵をきっている。米国とEUは研究方針こそ異なるが、ともに国家としての方針を決め、それぞれ体系立って研究開発を進めているのが特徴である。一方、日本は燃料関連の研究のもと、食料・飼料に関連する研究が混在している。内容としては全般的に基礎研究寄りのものが多く、産業化を目指している取り組みは欧米に比べて少ない。
日米欧の微細藻類研究戦略のマッピングイメージ/筆者作成
日本が目指すべき方向
日米欧3極の藻類研究において、予算規模については3極の中で日本が最も少ないが、米国、EUと比べて2倍弱であり、そこまで大差のない範囲であろう。課題があるとすれば米国、EUが方向性を明確にして、国の主導のもとで体系だった進め方をしているのに対して、日本はプロジェクト単位で進めているところだろう。
藻類研究はまだ始まったばかりの分野であり、業界を発達させていくためには研究者同士の交流、研究開発で得られた知見の共有化を通して、業界を支えていくための人材を育成し、業界全体を底上げしていくことが大事である。そのような視点から見たときに、欧米のような目標設定を明確にした上で、大きなコンソーシアムを組んで体系だった攻め方は効率的であり、日本のような個別プロジェクト単位で孤軍奮闘する攻め方は現段階では非効率だと思われるからだ。
ただ、日本の場合は欧米と異なり縦割り行政であるため、国としてまとまった方針が立てにくいのは制度上仕方がない。このため、藻類研究を行っている大学、公的機関、企業らでつくる業界団体が分野を横断して集結し、日本が国としてサポートすべき研究方針を決めていくことが必要であろう。
現に米国もEUも国が強い指導力を発揮しているものの、その陰には米国のABO(Algae Biomass Organisation)や、EUのEABA(European Algae Biomass Association)といった各国の業界団体がロビー活動を通して常に最新動向をインプットしながら国への提言を行っている。日本も藻類業界団体を介して研究方針を提言することが大事になっていくだろう。
以下はあくまでも私個人の考えではあるが、日本オリジナルなモデルとして、『ツリーモデル』というものを考えてみた。これは藻類研究のポイントなる部分を点で抑えながら、基礎研究から事業化までの流れを作るモデルだ。各省庁下のグラントで重点的に蓄積してきた技術を結びつけて体系化させるというアイデアだ。
重点技術分野の明確化/筆者作成
重点技術として日本は各省庁で蓄積してきた『大量培養』『評価基準』『藻類バイオロジー』の3点を取ってみた。『大量培養』は藻類を大量かつ安定的に培養する技術である。大量培養確立して初めて事業化に繋がっていくため、技術は産業界の方が持っている場合が多い。現在は主に経産省がリードして、技術を蓄積している。
『評価基準』は、統一した藻類の評価基準法を策定することで様々な技術シーズが出てきた際の比較を容易にさせるためのものだ。これにより技術の選別が可能となり、有用なシーズを早期に事業化することが可能となる。
『藻類バイオロジー』というのは藻類の基礎知識を含むものだ。主に大学を中心としたアカデミックな機関で行われきた藻類研究がメインとなる。事業化に繋がるシーズの発見が期待される。
現在はこれら重点分野の連携は部分的であり、それぞれが独立して技術を蓄積している状態であるが、これらの縦の交流の場を作ることによって、シーズから事業が生まれるまでの動きを作るのが『ツリーモデル』の元となる考え方だ。シーズから事業化までの流れが活性化することで産業としての魅力が高まり、結果として優秀な人材が集まる、という正のスパイラルを作っていけると理想的だ。
ツリーモデルの概念図/筆者作成
現実的には各プレイヤーの思惑もあるので、こんな夢のようなモデルが成り立つことはないわけだが、縦割り型の構造の中で進めてきた成果をうまく利用して、こういった進め方ができたらいいなぁ、、という個人的な希望を込めて描いてみた。日本全体としての藻類研究の進め方を考える際の参考になれば幸いだ。ここまで長きにわたって日米欧の研究動向を紹介してきたが、本稿を持って一旦まとめとしたい。