藻類からのプラスチックに関連する取り組みを引き続き紹介したい。前回はケイ藻を利用した取り組みだったが、今回はシアノバクテリアを利用した取り組みである(かなり研究寄りの専門的な報告になってしまうがご勘弁を)。
前回の記事はこちらよりご覧いただきたい。
アリゾナ州立大学(ASU)のTaylor Weiss助教のチームは、シアノバクテリアとバクテリアの共存システムによって日光からバイオプラスチックを作らせる研究を進めている。
ASU developing biodegradable plastics made from bacteria
The world is awash in discarded plastics. A recent estimate of the amount of plastic in Earth’s environment puts it at 6.3 billion metric tons (of the 8.3 billion metric tons that have been mass produced since the 1950s). This includes what is in landfills and what floats around in our rivers, lakes and oceans.
シアノバクテリア(藍藻)を遺伝子操作して細胞外へと糖類を排出させるようにする。排出された糖類はHalomonas boliviensisと呼ばれる好塩菌が餌として取り込み、ポリヒドロキシアルカン酸(Polyhydroxyalkanoates;PHAs)に変換させて細胞内に蓄積させる仕組みだ。太陽とCO2から二段階の微生物変換を介してバイオプラスチックを生み出すシステムと言えよう。
図 PHAの構造式
PHA は熱可塑性高分子であり,かつ環境中では炭酸ガスと 水に分解されることから環境調和型プラスチックとし て種々の応用が期待されている。PHA は主に C4,C5 の R-3-ヒドロキシアルカン酸から成る short-chainlength PHA (scl-PHA)と,C6 ~ C16 の R-3- ヒドロキシアルカン酸から成る medium-chain-length PHA(mcl-PHA)に分類される。
こういった種類の異なる微生物を複数種利用して物質変換させていくシステムは日本酒の二段階発酵に似ている。日本酒の場合は、麹カビを使って米(デンプン)を麹(ブドウ糖)に変え、酵母で麹から日本酒(エタノール)を醸造している。今回は米の代わりにシアノバクテリアを育て、そのシアノバクテリアが分泌する糖類から好塩菌H. boliviensisが生分解性プラスチック(PHA)を醸造している、ということになる。日本人のお家芸とも言える二段階発酵だが、新時代の二段階発酵と言えようか。
このシステムでもう一つユニークなのは、シアノバクテリアをハイドロゲル内に入れて培養させているところだ。これによりシアノバクテリアは増殖が制限されて、糖を分泌する側にエネルギーを費やすようになるらしい。分泌された糖類はハイドロゲル(アルギン酸)の外で培養されている好塩菌H. boliviensisに吸収され、速やかに生分解性プラスチックへと変換されていく。シアノバクテリアもH. boliviensisも塩に強い耐性をもつため、海水を使うことができるのも特徴となっている。
排出した糖源が速やかに吸収されるため、他のコンタミ菌も生えることなく、5ヶ月以上連続生産することに成功しているそうだ。今後の課題としては、ハイドロゲルの使用量を下げ、できる限り長期間培養できるうようにしてコストを低下させるところにあるとのこと。
藻類でPHAを生産させる基礎研究は米国だけでなく日本でも行われている。
同じくシアノバクテリアを利用した少し前の研究だが、こちらはシアノバクテリアが窒素やリンを欠乏した時にPHAの一種を細胞内に蓄積する性質を利用したものである。ただ、シアノバクテリアのPHA合成能は微生物に比べて一桁以上低いため、実生産に用いられるレベルにはない。このため、PHA合成を制御する遺伝子について網羅的に調べた結果、生産量を2.5倍にできる転写因子を見つけた、という報告である。
2.5倍に増えたとしても乾燥細胞重量あたりのPHAの量は2%程度なので実用化にはまだまだ遠いが、PHA以外にも糖リン酸(グルコース-6-リン酸など)、糖ヌクレオチド(GDP-マンノースなど)、クエン酸などの炭素化合物量が変化することもこの研究で明らかとなった。
実用視点で行くとこちらの方が大きな発見かもしれない。それというのも代謝酵素ではなくそれを制御している転写因子をいじることによって炭素代謝を幅広く改変できることがわかったからである。要は上流を狙い打つことで、その下流にある炭素代謝酵素群が大きく動いたわけであり、上流に位置する転写因子の制御機能が生命活動の動きに大きく影響していることが明らかになったのだ。
以上、米国が二段階発酵、日本が網羅的解析からの転写因子の同定、とそれぞれの国がお得意とする手法を入れ替えたような研究成果であるが、それだけ世界レベルで取り組むべきテーマであるということだろう。今後も研究開発が激化していく分野になることは間違いないので、動きを注視していきたい。
サムネイル画像
“plastic beads” ©2006 Aney/CC BY-SA 3.0