「なぜ今ここに我々は存在するのか?」
みなさんも一度は興味を持つ問いだと思います。科学界でも、「地球上の動物出現」は最大の謎の一つです。そんな中、この謎の答えは、氷河期の「藻」の大発生だった、という論文が科学雑誌Natureに掲載されました。
この論文では下記のようなことが述べられております。
6.5億年前、「スノーボールアース」と言われる最大の氷河期があり、地球が全球凍結していました。その後、融解時に、氷河が地表の栄養塩類を剥ぎ取りながら海に流れ込み、真核生物の藻類の増殖に適した環境になりました。それ以前は、食物連鎖の基部である生産者(被食者)を担っていたのは小さい原核生物のバクテリアであり、真核生物の藻類(注)は少数でしたが、6.5億年前の栄養塩類の増加がきっかけで藻類が大発生し、生産者を藻類が担うようになりました。藻類はバクテリアの約1,000倍の大きさがあり、食物連鎖の基部が栄養とエネルギーの豊富な藻類に取って代わったことで、大きくて複雑な多細胞生物の生態系を支えることができるようになったのです。逆にいうと、栄養塩類の不足により、6.5億年以前は藻類や動物の発生が妨げられていたということです。
(注):本記事中の「藻類」は、すべて「真核藻類」を示します
「スノーボールアース」という地球史の大事件があったからこそ、私たち人間がいまここにいる、この論文ではそう述べられています。
この「スノーボールアース」と「藻類・動物の発生」の関係もそうですが、そもそも「地球の歴史」と「生命の歴史」は切っても切れない関係です。簡単にご説明します。
「地球の歴史」と「生命の歴史」
46億年前、地球は誕生しました。当時の地球は灼熱で、約600℃以上と言われています。そして38億年前、地球が徐々に冷えてくると、液体が雨となって地表に降り注ぎ、原始海洋ができました。海といっても、水温は約300℃。この海には無機物質、有機物質が溶け込んでおり、それらが集まって「生命」が誕生したのです。このような、今では想像し難い地球環境があったからこそ、初めての生命は生まれたのです。その後は、生物が少しずつ変化して別々の生物種へ分岐、進化をすることで、多様な生物種が誕生していきました(詳しくはこちらの記事をご覧ください!)。
生命の誕生後、真っ先に進化した生物は、細胞の作りがシンプルな単細胞の「原核生物」でした。30億年前、生物の進化の中で、二酸化炭素を利用して酸素を放出する光合成能力を持つ「シアノバクテリア」という原核生物が生まれたのです。シアノバクテリアが出した酸素は、海に溶け込んでいた鉄(Fe2+)を酸化して地球上に鉱床を作り出しました。
次に出現した生物は、酸素を利用する事で生体のエネルギー効率を高めた単細胞の「真核生物」です。真核生物は、細胞の内部構造が複雑であり、原核生物の約1,000倍の大きさです。この真核生物は21億年前に生まれたとされています。
生物の進化が一気に進まなかった理由とは?
地球には当初、酸素はほとんどありませんでした。ところが、シアノバクテリアが作る酸素のおかげで、真核生物が生育可能な酸素濃度になりました。ただ、濃度は現在とはかけ離れており、21億年前は現在の0.1%、10億年前は1%であったとされています(井上 2007)。生物の進化において真核生物の多細胞化や大型化が進まなかった理由は、エネルギーを生み出すのに必要な酸素の濃度が低かったからというのが通説です。
これに対し、冒頭に紹介した論文の注目すべき点は、多細胞化を妨げていたものは「酸素濃度の低さ」ではなくて、「栄養塩類」であることを示している点です。また別の研究では、10億年前の酸素濃度は、現在の酸素分圧の10%は優に越していたという報告もあります(Canfield 2005)。
何億年、何十億年前の地球や生命の歴史は今も謎だらけですが、一つ確かに言えることは藻は30億年前からずっと生き続けて、現在の私たちを支えているということです。
参考資料
・Algae explosion 650 million years ago is why we’re here today, ANU researchers say
http://www.abc.net.au/news/2017-08-17/algae-led-to-the-evolution-of-humans-animal-anu-researchers-say/8810630
・The algae that terraformed Earth
http://www.bbc.com/news/science-environment-40948972
・多細胞動物の出現、藻の大発生が後押しか
http://www.afpbb.com/articles/-/3139452
・井上勲 (2007). 藻類 30 億年の自然史. 東海大学出版.
・Canfield, D. E. The early history of atmospheric oxygen: homage to Robert M.Garrels. Annu. Rev. Earth Planet. Sci. 33, 1–36 (2005)