シアノフォラが所属する灰色藻は、皆さんには馴染みが薄いかと思います。
現在知られている灰色藻は6属16種と小さな藻類グループですが、葉緑体の進化を研究する上で面白い藻類です。
●分類:真核生物>アーケプラスチダ>灰色藻綱>灰色植物目シアノフォラ属
●生息:日本を含めアジア、ヨーロッパ、アメリカなど世界中の淡水環境に生息
●体長/形態:遊泳性の単細胞藻類。腹部から等長の2本の鞭毛が生える。青緑色の2個の葉緑体(シアネレ)が細胞の大部分を占める。葉緑体中央部にはピレノイドと葉緑体核を有する区画がある。デンプン粒が多く存在している。
●レア度:★★★☆☆
灰色藻はシアノバクテリア(藍藻)を細胞内共生により葉緑体化した(一次共生)藻類のなかで、一番最初に分化した藻類と言われいます。光合成色素に青色のフィコシアニンが含まれているなど、シアノバクテリアの特徴を色濃く残しているため、灰色藻の葉緑体は「シアネレ」という特別な名称がついています。
シアネレの分裂様式は他の真核生物の藻類の分裂様式とは異なり、シアノバクテリアの体細胞分裂に近い様式で分裂します。
シアノフォラでは、球状のシアネレがまず片側がくびれるハート型になり、そこからくびれが分裂面全周に広がるダンベル型へと変化していき分裂します。ダンベル型に広がった溝は、時間をかけて深くなっていくため、通常は先の顕微鏡写真のようなダンベル型のシアネレが観察されます。
上のハートが3つ並んでいる写真は、分裂中のシアノフォラ細胞からシアネレを単離し、電子顕微鏡(FE- SEM)で表面の微細構造を撮影したものです(Sato et al. 2009)。分裂中のシアネレは、葉緑体外部にできる分裂リングがないため、表面はなめらかです。そして分裂は片側から進行するので、ハート型になるのです。
一般的な藻類、陸上植物の葉緑体の分裂は、まず葉緑体の外側全周に分裂リングが付着して、分裂リングが同心円状に収縮することで進行していきます。そのため、残念ながら決してハート型にはならないのです。
藻ガールより愛をこめて、シアノフォラの超ミクロなハートをご紹介させていただきました。
参考資料
Sato, M., Mogi, Y., Nishikawa, T., Miyamura, S., Nagumo, T., & Kawano, S. (2009). The dynamic surface of dividing cyanelles and ultrastructure of the region directly below the surface in Cyanophora paradoxa. Planta, 229(4), 781.
Kugrens, P. (2001). Structure and phylogeny of Cyanophora species. In Symbiosis (pp. 257-272). Springer, Dordrecht.
Takahashi, T., Sato, M., Toyooka, K., Matsuzaki, R., Kawafune, K., Kawamura, M., … & Nozaki, H. (2014). Five C yanophora (C yanophorales, G laucophyta) species delineated based on morphological and molecular data. Journal of phycology, 50(6), 1058-1069.
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/pls/research_1.html
顕微鏡写真提供
墨谷暢子(慶應大学助教)